世界の子どもたちへのワクチン普及は、喫緊の国際保健課題です。2019年から2021年の間に、一度もワクチンを受けていないゼロドース児は1,300万人から1,800万人へと約40%も増加し[1]、その生命と健康が脅かされています。ゼロドース児を減らすことは世界的な目標(IA2030)にも掲げられ、日本も多額の資金支援を通じてこの国際目標に貢献しています。実際、日本政府はWHOやUNICEF、そして重要なパートナーであるGaviワクチンアライアンスへ資金拠出を行っており、Gaviワクチンアライアンスには2021年~2025年の第5期拠出として1億米ドル、COVID-19への対応を目的に設立されたCOVAXには15億米ドルを拠出しています[2][3]。COVAXへの多大な貢献が国際社会で評価され、日本はGaviワクチンアライアンス理事会においてリーダーシップを発揮するアンカードナー国のポジションを得ることができました。COVAXが2023年をもって終了し、Gaviワクチンアライアンスの第6期拠出(2026年〜2030年)において日本が継続的に世界のワクチン普及を推進していく必要があります。今後の支援継続には国内世論の後押しとユース世代の理解・支持が不可欠です。

日本の若い世代ほど国際協力に前向きである傾向が従来の調査から示されており、内閣府の世論調査では20代の『積極的に国際協力を進めるべきだ』という回答割合が平均30%に対し45%と高く 、最近の調査でも高校生世代の約7割が日本の国際協力推進を支持しています[4]。一方で、残念ながら日本国内ではグローバルヘルスへの関心やGaviワクチンアライアンス、ゼロドース児といったテーマの認知度が十分に高くない可能性があります。

このような背景から、当団体は、日本の30歳以下のユース、特に医療系大学・大学院生を対象に、Gaviワクチンアライアンスやゼロドースの子どもに関する認知・意識とアドボカシー意欲を把握する調査を企画しました。本調査は、若者の声を政策に反映させるエビデンスを提供すると共に、日本国内での認知向上にも資することを目的としています。

本調査は、2025年6月5日から6月17日にかけて、Googleフォームを用いたオンライン形式で実施しました。 全国の医療系大学・大学院生88名(男性28名、女性60名)にご回答いただいた内容を集計・分析しています。

調査結果から、いくつかの傾向が見えてきました。

国際保健課題への高い関心:

48.9%の回答者が、感染症や予防接種などの国際保健課題に『関心がある』と回答しました。 さらに、『世界のすべての子どもがワクチンを受けられるようにすることは重要だと思いますか?』という問いには、78.4%が『とても重要だと思う』と答えており、ワクチンに関する話題が広く共感されるものであることを示しています。

Gaviワクチンアライアンスの認知度における課題:

国際保健への関心が高い一方で、『Gaviワクチンアライアンス』の認知度は低い現状が明らかになりました。 89.8%の回答者がGaviワクチンアライアンスについて『知らない』と回答しており、 UNICEFの日本政府拠出に関する認知度(78.4%が『知っている』 )と比較しても、Gaviワクチンアライアンスの知名度の低さが浮き彫りになりました。

日本政府の国際保健支援への高い評価と支持:

UNICEFやGaviワクチンアライアンスへの政府支援についての質問に対して、63.6%の回答者が『GaviワクチンアライアンスやUNICEFのような組織への政府支援を評価する』と回答しました。 特に『世界の子どもを守ることは大切だから』という理由が70.4%を占めており、 人道的な視点からの支援の重要性が認識されています。Gaviワクチンアライアンスに限った場合も、政府支援の継続を支持する回答者は54.5%と半数を超えています。 

国際保健重視の候補者への高い投票意欲:

『国際保健や低中所得国の子どもたちの予防接種を支援する候補者に対して投票しますか?』という問いに対し、65.8%の回答者が投票意欲を示し、投票する上で国際的な健康課題にも目を向けていることが示されました。

一方で、『選挙があるときに投票に行きますか』という問いに対して『必ず行く』と回答した人は39.8%で、『予定がなければ行く』と回答した人は42.0%でした。特に『予定がなければ行く』と回答した若者を投票につなげるための試みを強化する必要性があります。

結論

今回の調査により、日本の医療系学生が国際保健、特に子どもたちの予防接種の重要性に対し、非常に高い関心と貢献意欲を持っていることが明らかになりました。 その一方で、Gaviワクチンアライアンスやゼロドース児といった具体的な活動や概念の認知度には大きなギャップがあることも判明しました。 

この調査結果は、日本政府が国際保健政策をより積極的に推進していくことの重要性も示唆しています。医療の未来を担う若者たちが国際貢献に高い関心を示す今、政府と市民社会が一体となって、世界のゼロドース児をなくすための取り組みを加速させていくことが強く望まれます。

引用文献

  1. World Health Organization & United Nations Children's Fund (UNICEF). (2022). Progress and challenges with achieving universal immunization coverage: 2021 WHO/UNICEF estimates of national immunization coverage (WUENIC)https://data.unicef.org/wp-content/uploads/2016/07/progress-challenges_wuenic2021.pdf
  2. Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2022, April). Japan’s contributions to the COVAX Facility. https://www.mofa.go.jp/files/100536486.pdf
  3. Gavi, the Vaccine Alliance. (n.d.). Japan: Donor profile. https://www.gavi.org/investing-gavi/funding/donor-profiles/japan
  4. Save the Children Japan. (2025). 国際協力に対する若者の意識調査 2025. Save the Children Japan. https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/kokusaikyoryoku2025.pdf

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